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ガラス作家 今井美智氏へインタビュー | 茶器に宿る温もりに包まれた美しき自然。作品に込められた想いとは。



茶禅草堂の小林涼子です。自然を愛するガラス作家、今井美智氏と岩咲ナオコの対談を記事にいたしました。



今井 美智 |ガラス作家

京都出身。骨董市で古いガラスに出逢い、ガラス作家の道を目指し東京ガラス工芸研究所へ入る。2001年より金沢にて制作活動をはじめる。2009年に台湾でお茶に出逢い、衝撃を受け、その後、台湾茶器の制作に没頭。2017年、上海茶の路で展示会をしたことをきっかけに、北京、西安、武夷山、成都、大連、杭州など、中国全土で展示会を開催。


岩咲 ナオコ | 茶禅草堂 (ちゃぜん) 中国茶教室&サロン 主催

茶人。1993年~1994年台湾在住中、台湾茶中国茶のおりなす世界に魅力を感じ、活動をはじめる。国内のみならず、中国・台湾でお茶をふるまい、独自の世界観を展開。茶人としてあるべき姿を求め、当初より茶の道のテーマとしてきた「人」「自然」「空間」の調和的世界を体現すべく、2021年より東京から瀬戸内海をのぞむ自然環境の豊かな地に拠点を移し、茶人生活を再スタートさせる。




−− 今井さんとはずいぶん長いお付き合いになりますね。(岩咲)


 私は2012年に3ヶ月間台湾に語学留学をしていて、2013年くらいから茶器をつくり始めました。ちょうどその頃岩咲さんが台北のギャラリーで私の作品を見てくださって、その時からですね。(今井さん)


(8年来のご縁が今も続く今井さん(左)と岩咲(右))



−− もう8年近く経つんですね。あの時は台北の松山空港から帰国のフライト待ちで、「3CO」というギャラリーに立ち寄ったんですよ。そこで茶則を見つけて、目が釘付けになってしまって。今井さんのお名前を店員さんに教えてもらって、日本に帰って早々、1ヶ月後には連絡を取りました。

 そんな偶然だったとは、初めて聞きました。すごいご縁だったのですね…。

(台北のギャラリーで出会い、惚れ込んだ今井さんの茶則)

−− そうですね。こんな柔らかい作品をつくる人ってどんな人なんだろうと、作品から惚れ込んで、どんな人柄の方だろうと思いを馳せたのはほとんど初めての経験でした。お電話をした時、今井さんの柔らかい話し方に安心したのを覚えています。今井さんの茶器を紹介しながらお茶会の開催などもしましたが、今では日本だけでなく、台湾や中国大陸全土にご活躍の場が広がってますね。


 岩咲さんとの出会いがきっかけなので、すごく感謝しています。本当にそこから始まった感じですね。


(今井さんの作品とコラボ茶会@横浜陶明舎)


−− 日本、台湾、中国大陸と広く活動されている今井さんですが、そもそも茶器はどんなきっかけでつくるようになったのですか?

 2009年に台湾の茶房に嫁いだ友達のところに遊びに行き、そこで台湾茶にすっかり魅了されてしまって。茶園にいるときの自然と一緒になる感覚。同じ香り、味わいには二度と出会えない、唯一無二のお茶。お茶に出会って私の人生はとても豊かなものになりました。それで、お茶の勉強がしたくなってガラス製作の仕事も休憩して台湾に語学留学をしました。留学中、友達とたくさん茶房やギャラリー巡りをしたのですが、その先々で、ガラスの茶器をつくってと言われたんです。当時はガラスで茶器作品をつくっている人は少なかったし、あっても工業製品ばかりで。じゃあ私もお茶好きだしつくってみるか、というのがきっかけでした。


−− なるほど。それなら台湾茶もよく飲まれていると思いますが、お好みの台湾茶や中国茶はありますか。

 季節で飲みたいものが変わりますね。夏はやっぱり白茶です。あとは、先日台湾から茶葉をいろいろ送ってもらったので、文山包種茶(台湾の軽発酵烏龍茶。詳細はこちら→。)などを飲んでます。冬は岩茶とか飲みたくなりますね。

 日々、お茶を飲んで心と体を整えています。朝目覚めて、今日は何のお茶を飲もうかなと考えるのは幸せな時間ですね。展示会で様々な場所を訪れますが、初めてのお茶に出会い、茶園に行って、体を緑の空気でいっぱいにして次はどんなものをつくろうかと思いを馳せます。お茶とガラス製作の間を行き来することで、私の中にエネルギーが生まれるんです。


−− 素晴らしい楽しみ方ですね。今井さんのガラス茶器ですが、どんな技法で作っているのですか。

 吹きガラスの技法と、たまに電気炉で石膏の型を使った技法で製作しています。この2つは対照的な技法で、吹きガラスは身体を使って瞬間的に形づくる、集中力がいる仕事です。電気炉の方は粘土で原型を取るのでやり直しも効き、時間をかけて製作できます。異なる技法を交互に取り組むことで、うまくバランスを取りながら製作していますね。


(今井さんのガラス製作作業風景)



−− ガラスにもいろいろな技法がありますね。今井さんの作品は吹きガラスのものが多い印象ですが、吹きガラスの技法で茶則や茶通、茶海をつくるというのは、本当に神業に感じます。


(吹きガラス技法でつくられた、今井さんの美しい茶通)

 

 吹きガラスはとても柔らかいガラスを使います。その柔らかい状態をできるだけ遠心力と重力を使って、あまり人の手を加えずにそのまま表現したいと思っていて。自然のままに仕上げたいんです。


−− あまり自分の色を作品に入れすぎない、というのが今井さんのこだわりなんですね。

 ガラスが「透明である」ということの力をすごく感じます。ガラス越しにゆらゆら湾曲して見える景色や透き通った影がすごく美しく見えたりとか本当にちょっとしたことなんですけど、ほっとしたり、キレイだなと思ったりする瞬間が少しでも日々の生活に取り込めたらいいなと思って。そういうことを身近に感じられるような作品をつくりたいなと思っています。なるべく自然のままに。足し算はしたくないですね。


−− ガラスというと涼やかで夏のイメージが一般的ですが、今井さんの作品は温もりがあって、私は冬の茶席にも使わせてもらっています。冬景色の演出にもよく調和しますね。夏の印象だけではないところが魅力だなと感じています。

 ありがとうございます。私は技術が拙いのでとにかくひとつひとつ、一所懸命につくっています(笑)。自然のものからヒントをもらうことも多いですね。工房周辺の自然、例えば冬景色や木漏れ日などの風景、特に電気炉の型の技法でつくる時に、そういう風景の印象と結びつけてつくったりしています。


−− 自然からの発想を作品に取り入れているわけですね。では、今井さんの作品をいくつかご紹介したいと思います。まずは茶則。今井さんとのご縁のきっかけにもなった作品で評判も高いですが、これはどのようにつくっているんですか?

 これは吹きガラスですね。吹いて膨らませて半分に割って、そこからひたすら削ります。磨りガラスの部分は、サンドブラストという砂を吹きかける機械を使ってつくっています。

(磨りガラス仕様の今井さんの茶則)


−− こういう型になっているのを真ん中で縦にパァンと割るんですね。

(茶則製作 半分に割る前の膨らませたガラスのイメージ)

 

 そうです。これ、割っただけでしょと言われることもあるんですけど、すごく手間がかかってるんですよ。面の縁取りや、とにかく削るのにすごく時間がかかります。


−− それは大変ですね。でも最近の作品はさらに薄くなり、より茶葉が流れやすくなりましたよね。また、作品の曲線が緩やかに流れていたりまっすぐだったり工夫されていて、茶則だけでとても美しいなと思います。

 この作品は花びらをイメージしました。ゆらゆらとした雰囲気がキレイだなとつくりながら思っています。



−− もうひとつ、人気の作品がこちらの茶海(片口)。私もずっと愛用させてもらっていますけど、中国大陸で大人気ですよね。

(切れがよく、水の流れが美しい今井さんの茶海)

 

 中国大陸からはすごくたくさんの注文をいただいています。2,000個は遥かに超える数をつくりましたけど、あちらは人口も多いですからね。今では定番商品になっています。


−− この茶海のいいところは水切りの良さですね。シンプルでキュッとした曲がり具合のおかげか、本当に使いやすいです。

 私自身も水切りの良さは感じますね。この茶海の口の部分は、普通は道具を使って引っ張るんですけど、私は最初その方法の発想がなくて、ひっかけてギュンと落とす感じで形づくっています。つくり方をみていた友達が驚いていましたね(笑)。今は引っ張ってつくっている茶海もあります。


−− 今井さんの茶海はどれでもほぼすべて水切れいいですよ。こちらの茶海は、「光」というテーマの作品です。背が高めのサイズ感ですが、太平猴魁(中国安徽省の緑茶。茶葉の形状が平らで長い特徴がある)を淹れるのにぴったりな大きさで驚きました。


(今井さんの茶海新作「光」)



 太平猴魁をこの茶海で淹れるアイディア、さすが岩咲さんだなと思いました。背が高いのから低いのまで、バリエーションを増やしたくてつくった作品です。


−− 茶禅草堂の門下には男性茶人もいますが、男性からみると背が高めの大きいサイズは使いやすいようですよ。

 男性茶人はあまり見かけないので、感想を伺えて嬉しいですね。我ながら当初のイメージよりやや大きめに完成した印象だったのですが、本来私は、手が大きく自分で使う器も大ぶりなものの方がしっくりきます。細かい作品よりも大きめの作品をつくる方が得意なんです。この茶海は実際につくってみたことで、背が高いので上を持てば熱くなくて扱いやすいという発見もありました。


−− 今井さんの作品はどれも存在感がありますが、ガラス素材なので周りの雰囲気にも上手く馴染みますね。「光」というテーマの由来を教えて下さい。

 この茶海をつくる過程で凹凸の金型にガラスを吹き入れます。そこで出来た凹凸に太陽光が当たってゆらゆらと影がたゆたう情景に出会うんです。すごくキレイで光の存在を身近に感じられるなと。普段の生活の中で光とか風とかあまり意識する機会は少ないと思うのですが、そういうものこそ日常の宝物だと思っています。そんな宝物を日々取り込んで気持ちよく過ごして欲しい。そんな思いを込めて「光」と名付けました。私のつくる透明のガラスが光と風を携えて、日常の何気ない美しい光影の一部になればと願っています。


−− こちらの新作、茶入れについても教えていただけますか?


(ガラスと金属蓋のコラボレーションが美しい今井さんの茶入れ)

 

 中国大陸のお茶に出会ったことで、かさばる茶葉や大きな茶葉などが多いことに気がつきました。小さな丸い蓋物では入りきらないと思ってつくり始めたものです。金属の蓋は友達に製作してもらっています。


−− 先ほどの太平猴魁もそうですが、これくらいのサイズがあると確かに便利ですね。丸い蓋物、と言っていたのはこちらのタイプですね。これなら台湾茶にちょうどいいです。今の季節なら東方美人とかぴったりですね。

(台湾茶にちょうど良い今井さんの丸型の茶入れ)


−− 今井さんはいまや日本、台湾、中国大陸と多くの作品を出品されていますけれども、地域毎に好みの違いを感じられたりすることはありますか?

 日本は全体的に渋好みで、シュッとした格好いいデザインが好まれるなという印象です。台湾はここ2〜3年色を入れた作品を求められますね。透明はもうあるから、と。中国大陸は懐が広いので繊細なものからガツンと骨太の物まで何でも受け入れてくれます。若いお客様が多い印象ですね。展示会でもみんなすごく真剣に作品を見ていく。でも、いい意味でも悪い意味でもきっちりせずにゆるい一面もあって、そんな大陸のスケールの大きさには魅力を感じますね。私の頭の中は、台湾4:中国大陸4:日本2の割合な感じで、空の向こうのことで頭がいっぱいです(笑)。


−− 大陸のダイナミックさやおおらかな一面が今井さんの作品と合っているのでしょうね。今はなかなか台湾や中国大陸に行くのは難しい状況かもしれませんが、今後の展望やチャレンジしたいことを教えていただけますか?

(今井さん 北京のギャラリー「回HUI」にて撮影)

 将来的には、台湾でお茶にまつわる仕事がしたいですね。日本と台湾を行き来しながら、日本でガラス製作をして、台湾でお茶の仕事をしたいです。

 今取り組みたいことは…、そうですね、今は飛行機に乗れなくて空を見上げる日々。雲とか虹とか飛行機雲とか…夕焼けや流れ星も見て、そんな空の景色をガラスで表現できたらいいなと思っています。本当の自然のものには敵わないなと思いつつ、いろいろ試作しています。

 お茶を通じて自然の存在を身近に感じられるようになってから自分も多くを求めず、花や樹、風や雲のようにひとつの自然の存在として生きられればよいのではと思うようになりました。自分のすべきことをして、光のある、透き通った時間の流れる場所をつくりたい。そしてその場で出会った人たちの心に気持ちよい風が吹けばと思います。茶と共にあり、ガラスをつくる喜びに満ちた日々に感謝をしています。


−− やはり自然から得るものが大きいということですね。最後に伝えたいことがあればお願いします。

 岩咲さんとのご縁が広がって、今の台湾や中国での活動に繋がっています。すべて岩咲さんとの出会いから始まっているな、とすごく感謝しています。茶器をつくる上でお茶のプロである岩咲さんのアドバイスを伺えるのは私にとってもすごく力になります。これからもよろしくお願いします。

(終始笑顔の絶えないトークセッションとなりました)


−− お互いアイディアを出しあっていつか作品をつくれたら良いですね。また、お茶会も、日本だけでなく台湾や中国でも機会を見つけて実現させましょう。ありがとうございました。


ありがとうございました。








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